神霊狩小説A


(43)  12月27日 おまけ 「なすびvs保冷剤」

 
 信が久間田に戻る日の朝
 
 太郎が台所で、割り箸に刺した茄子を焼いている。
『茄子のヘタの切り口を焼いて当てると、口内炎がすぐ治る』 というのは、太郎が小さなころ父親からよく施してもらった民間治療だ。
「焼けた♪」
 
 焼けた表面をはがして、リビングに跳ねるように走る太郎。
「はい、焼けた焼けた。信。口ば開けんね♪」
 信は明らかに迷惑そうな顔をしている。
「いらん。」
「遠慮せんでよかけん、あーん、せんね」
「いらんち言うて」
「せっかく焼いたつにっ、信っ」
「………」
「む〜〜〜〜〜っ」
「なら自分でするけん。渡しない」
「だめばい。」
 どう見ても太郎が引きそうにないと、あきらめる信。最後に抵抗してみる。
「……それ、まだ熱かろうが」
 熱くなかよ、ほら。自分の頬に当ててみせる太郎。ぴと。
「あちっっっ」
 
 珍しくあわてた様子で台所にくると、冷凍庫から保冷剤を出して走っていく信。
「あー、びっくりしたばい」
「せからしかっ」
 美樹 (太郎の母親) が振り返ると、信が太郎の顔を押さえつけて、頬に保冷剤を押し当てている。
「信、これ冷たかー。顔がしもやけになるとー」
「黙れ。」
「お母さん、助けてー♪」
「黙れっちゅうにっ」
 口内炎の茄子で、どうしてこの騒ぎになったんだろう。
 
 ほらほら見せてごらんね。美樹が太郎の頬をチェックする。
 確かに赤くなっているが、保冷剤で冷やされすぎただけみたい。
 もうよかよ。言うと、ようやく信が太郎を離す。
「んじゃ信、茄子。口ば開けんね」 太郎が、握りしめて完全につぶれた茄子のヘタをさしだす。
「ぬしゃ、そいばさっき床に落としたやなかっ」
 
 人の世話なんてしなれない者同士で、世話をやこうとするから……。
 
 昨日は太郎のどこを見て 『しっかりしてきた』 とか思ってしまったんだろ。それにしても、男の子ってガサツで面白いなぁとか思ってしまう美樹なのでした。




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