神霊狩小説A


(23)  11月1×日 学校〜古森家@
 
 
 社交辞令かもしれんち言うとったばってん、と太郎が付け加えた。
 夏に会った時、太郎の母親に 「新酒ができたら飲みにきてね」 と言われた匡幸の母親が、ぜひと答えたらしい。今度の土曜に父親が会合で出かけるので、時間があれば来てください、と誘うよう言われたと言う。
 
「あ。でも夕方から加藤っていう家に行くことになってるよ」
「おまえの母親、まだあげなとこに行きよるとか」 信の問いに匡幸はなにも言わず、肩をすくめて見せる。
 加藤の家は大神の親戚で、加畠が仮住まいしている所だ。
「じゃあ太郎んとことも親戚なんだ」 なら少しは安心なんだけど。
「うーん、うちとはちびっと遠か親戚たいね」
 
 夏の一件以来、誰かれ構わず神霊を目にすることはなくなったものの、あの時その存在を確信する体験をしたものは更に拝霊会への信仰を深めているようだ。
「確かにずーっとゲームしているわけじゃなくなったけどさ、ああいう所に行くのと、どっちがマシか分かんなくなっちまったよ」
「知るか」信が不機嫌になってしまった。
 
 
 土曜日の昼過ぎ、父親の車で太郎の家まで送ってもらう。ちょうど久間田に帰る信と玄関先ですれ違った。
 母親が一瞬びくっとしてから、信に頭を下げた―――信が露骨に嫌な顔をして通り過ぎる。
「おい、信・・・」 信は目も合わさず出て行ってしまった。
 
「奥さんは、あの大神くんのこと、怖くないんですか」 母親が、太郎の母親に訊いている。
「怖いですか?いい子ですよ――さすが血が繋がっているだけあって、太郎によく似てるんです」 太郎の母が笑って答える。「不器用でね、素直なんですよね」
「・・・似ているんですか。太郎くんと。」 納得いかないようだ。横で聞いている太郎が、何故か赤くなっている。
「大神様の、力を持っているんですよね。いずれは大神拝霊会の教祖になるって。」 「ママ、それは・・・」 あわてて遮る。そんな噂、どこから出ているんだろう。
 
「主人には、もう拝霊会には行くなって言われているんです。」
「そうですか。残念ですね」 太郎の母親があっさり答えたので、全員が意外な顔で見つめた。
 何をどういう風に考えなさいとか、他人に指図されるのは辛いものね。――自分がさんざん言われてきたことを言っているようだ。
「あそこにいて楽しいならそれでもいいけど、でも、もしこんな風に普通におしゃべりするだけで気が晴れたりできるなら、それでもいいと思わない?」
 話しながら、作りたての大学イモとお茶の入ったポットをお盆に乗せてくれた。
 こっちはお酒の席だからね、と太郎の部屋に追いやられる。
 少し心配になったが、夏に会った時には笑顔で話していたから大丈夫だろう、と太郎が言った。



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