神霊狩小説A


(24)  11月1×日 学校〜古森家A
 
 
「あ、そこはお姉ちゃんの部屋で…今は信が使っとるとよ」 階段を上がったところで太郎が言う。
「え……いいのかよ」
「お姉ちゃんの荷物は、仏間に移してあるけん」 いや、そういう意味じゃなくて。と言おうとしたが、太郎も分かっていてそう答えたようだ。
 
「太郎のお母さん、標準語しゃべるんだな」 太郎の言葉を聞いていると、どうも意外だ。
 相手に合わせて話しとるごたる。と太郎が言う。
「うわ、うちのおふくろも、何年かしたら太郎みたいに『とっとっと〜』とか言うのかな」
 太郎がムッとした顔をしてみせる。 「なんね、匡幸のほうが、もう言葉うつっとるとよ」
「えっ嘘だろ?いつ言ったよ?!なんでその時、教えてくれないんだよ。今度言ったらちゃんと訂正してくれよな」
「イヤばい♪」 太郎は嬉しそうだ。「いいやん別に。ここで暮らすんやけん」
「ヤだよ。大学で東京戻ったら恥ずかしいじゃん」
 
「匡幸、東京の大学行くとね」
「ちょっと専門の勉強したいし。ていうか俺、将来大日本バイオに入るのも悪くないかな〜なんて思ってんだよね」
 太郎がびっくりした顔で見る。自分が大学を出る頃には、あのプラントの研究も少しは進んでいるだろう。「ちょうどいい時期に研究チームに入れるかとも思ったり」 言うと太郎は真剣な顔になった。
「…匡幸、あん時、神霊に襲われて、心が読めたっち言ったとよね。自分たちも生きとるって。そんでも、そげん研究しようち思うとね」
 太郎に反論されるとは思ってなかったな。「世界中で研究してるんだから、どこかがやるんだよ。どうせなら、中心にいたほうがよくね?」
 それに、あの研究が完成すれば、移植用の臓器を取る目的で売買される子供もいなくなるかもしれない。もっと早くできていれば、太郎たちの誘拐事件だって起こらなかっただろう。
 
 しばらく黙っていた太郎が口を開いた。
「僕、ずっと前にテレビで観たとよ。ネズミの体に、人間の耳が生えとるごつ。怖かった。なんか知らんけど、すごく怖かったとよ」
 ああ、あれか…確かにあれは不気味な映像ではあったな。
「あん時、僕ら誘拐した犯人にとっては、僕もあんネズミも同じやったちこつやね。」
 背中が一瞬で冷たくなった。体のパーツを取り出されるためだけの生命体。
 
 …太郎はあいつらすべてに自分を重ねているのか。



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