神霊狩小説A


(22)  (ちょっと戻って)9月 水天町中学・校庭
 
 
 珍しく信が体育の授業に参加した。
 
「おい、身長順に並べってさ」 匡幸が声をかけてくる。
「今日はフォークダンスやるんだって」
「ああ?」 冗談だろう。どうりでさっきからニヤニヤしてると思ったら、分かっていてしつこく誘ったのか。
 匡幸を睨みつけたが気にするふうでもなく 「お、あっちでも もめてるぞ」 と楽しそうに言う。太郎だ。体育はA組、B組の合同授業になる。
「ほら、ちょうどよか。古森、大神と仲よかけん、な」
「関係なかですよ〜」 珍しく太郎が先生に反抗している。
 ……?なんなんだ。
 
 
 信じられんばい、と太郎がぼやく。
 男子が女子より多いため、背の小さい3人が女子の後ろに並ぶことになった…と言っても太郎のほうが背の高い女子より小さいのだが。
 ちょうど信と組むことになって、横に並んで立っている。
 僕、この間も女の子ん役、やらされたと。とブツブツ言っている……ということは匡幸はこうなることも分かっていたのか。つくづく喰えない。
 
 ♪たららったったららら ら・た・た♪
 無情にもオクラホマミキサーが流れる。一瞬太郎とにらみ合ったが、しょうがないので手を取った。
 
「………太郎。」 おたがい相手のほうを見ないで歩く。太郎の手が、熱があるかのように熱い。
「な、なんね」
「赤くなるの、よさんか。よけい恥ずかしくなるばい」
「ま、信こそ、しかめっ面、やめんね」 太郎が地面を見たまま、まっ赤になって言う。
「………」 この状況で笑顔だったら危ないだろう。かえって眉間にしわが寄った。
 
 
 太郎とのターンが終わると、ふいに信が 「やってられんばい」 と言って輪から抜け出してしまった。
「あ、あ、信、ずるかあ〜ぁ」 こんな時は、信の性格が うらやましい。
 あと4人で匡幸とのターンになってしまう。早く曲が終わればいいのに、と思っている時にかぎってなかなか終わらない。
 あと2人、あと1人―――匡幸が満面の笑顔で手を差し出す。
「せからしか、せからしか せからしか せからしか」 無理やり手を握られて思わず叫ぶ。
「なんだよ〜、まだなんも言ってないじゃん。」 その嬉しそうな顔がイヤばい、と言うと さらに嬉しそうな顔をした。
 
 ♪たらららららら・たらららららら♪
「しかしなんだね〜。信も、太郎相手だと踊るんだ」 匡幸はごくあたりまえに踊りながら話す。
「べつに、信はただ歩いとっただけったい。僕だけステップ踏んどって…」 自分の説明がマヌケすぎて、また顔に血があがってきた。
 太郎は可愛いなぁと露骨に言いながら匡幸がじゃれてくる。
「やめんねー、触ってよかとこは、手のひらだけったい!ちょっ、重たか!!」
 こら、そこふざけるな、と先生に怒られたところで曲が終わった。
 
 授業後、着替えていると道男に 「太郎と信のペア、明治時代のお見合いごたる雰囲気やったとね」 と感心したように言われた。
 
 もう、わけ分からんばい。



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