神霊狩小説A


(34)  12月21日 水天町・匡幸@

 
 
 年内の授業も、残り一週間になった。12月中に、私立高校の受験予定を学校に提出することになっている。
 水天町には、公立の高校がひとつだけ。ここでは、私立はあくまで公立の滑り止め、という扱いらしい。
「どうせ他の地域の私立に通うくらいなら、東京に戻ったほうがいいだろう」
 昨晩の父親の言葉を思い出し、匡幸はため息をついた。
 せっかくずっとここにいられると思ったのに。なんでこんなに田舎なんだろう。
 
 日曜日、匡幸の部屋でゲームをしていると 「なんね匡幸」 しびれを切らしたように太郎が訊いてくる。
「さっきから人ん顔見て、ため息ばっかついてくさ」
「あ…ごめん」
 太郎が次の言葉を待ってじっとしているので、 「太郎は、ここの高校に通うんだよな」 とうとう切り出した。
「匡幸は、違うと?」
「親父がさ、あんな、町に1校しかないとこ行ったってしょうがないって言うんだよ。全員同じ高校行くんじゃ、学力のレベルに差なんか出ないって。」
「……東京、帰るとね」
 太郎と顔を見合わせたまま言葉を探す。帰らないよ。自分に言い聞かせるように言うと、「うん。」 太郎もそれ以上なにも言わなかった。
 
 太郎が帰ろうとしたとき、ちょうど匡幸の父親が出かけるところだった。玄関で太郎が丁寧に挨拶をしている。こういうところが、大人うけするんだよな太郎。
 太郎と話している父親を見ていると、急にムカムカしてきた。自分たちを引き離そうとしているのに、なんで平然と太郎と話ができるんだか。
「パパ、俺、高校は太郎たちと同じとこ行くから」 後ろからはっきりと言うと、父親は顔を向けた。「そんな話はあとでいいだろう。なんだ人前で」
「俺、ここにいたいんだよ」
 父親はイラついた目で匡幸を見る。「いい加減、オモチャみたいなことを言うのはよさないか。」
 太郎がおろおろしながら、匡幸になにか言おうとしている。文句を言うのをやめさせようとしているんだろうけど、こっちも今日は太郎がいるから強気になっている。
 いま言わないと、また頭ごなしに命令されて、終わりになってしまう。
「パパにとってはつまんないことでも、俺には一番大切だってこともあるんだよ!」
「自分の将来を考えたことがあるのか。俺が、なんのためにこんなところに単身赴任で来ていたと思うんだ」
 つとめて冷静に話をしようとする相手に、よけい感情が高ぶった。「じゃまな俺たち置いて、好き勝手やりたかったからじゃないのかよ!」
 ばん! 匡幸の父親が壁を叩く音に、太郎がビクッとなる。
 
*  *  *

 

「ごめんな太郎」
 口論の後、父親はそのまま仕事に出てしまったのだが、太郎がうつむいたままになってしまった。
「うん……よかが……あんさ、匡幸。訊きたかばってんが」
「な、なんだよ」
「匡幸って、そげに頭よかったと?」
 
 
 ―――いいんだ。太郎の、こんな時に的外れなことを言うような所も、気に入ってんだから。
 
(続)

 



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