神霊狩小説B


(51) 2月×日 水天町・学校A



 
 
 火曜日。私立高校の受験日。
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 太郎と道夫は久間田の、匡幸は東京の私立へ受験に行った。
 信は―――みんなの勧めを断って、結局私立は受けていない。
 学校では (ほとんどいないが) 私立を受験しない生徒が、一日自習ということになっている。
「試験終わったら、学校行くけん。迎えに行くけんね。」
 朝、父親の車に乗るとき、意を決したように太郎が言った。土曜にあんなことがあって、日曜に帰ってからもまともに口をきいていない。こんな状態で、太郎の受験はうまくいくんだろうか。
 教室はガランとして、勉強するわけでもなく座っていたがだんだん気が滅入ってきた。
 昼のチャイムが鳴ると、信は学校を出た。
 学校をサボるのは慣れているが、以前のように家でギターを弾くわけにもいかず、とりあえずなんの目的もなく歩きだす。
 ただブラブラと歩くのも久しぶりか。考えてみると、古森家に行ってからはいつも誰かと一緒にいるような気がする。
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 つぶれた大神の家があった場所に行ってみると、サラ地のままだった。まだ拝霊会の建て直しが始まっていないのを確認して、ほっとしたようなため息が出た。
 田んぼ道をしばらく歩くと、遠くに現在の拝霊会が見える。加藤という、姫子の甥の家で、拝霊会がつぶれる以前から祈祷所や拝殿が分置されていた。
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……意外なものを目にして、足が止まった。
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 古森家の車だ。
 本家が、なんの用でこんなところに来ているんだろう。祭事用の酒は、信者から寄贈されているもの使っているはずだが。
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 しばらく待っていると、玄関に加畠の姿が現れた。続いて太郎の父親と、早苗が出てくる。
 信は、どちらからも拝霊会に行く話を聞いていない。土曜日の話が脳裏をよぎる。
 挨拶を終えた2人が車に乗ろうとして―――太郎の父親が、信に気がついた。
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「信、お母さんとあんまし話ばせんとやね」
 車で久間田まで送って、見送る早苗をバックミラーで見ながら太郎の父親が言う。
「どっちも、もともとしゃべらん性格やけん。」
「そうたいねー。まあ親子やけんねー。」
 なにをしに拝霊会に行っていたのか、2人ともまったく話さなかった。やはり信に聞かれたくない話なのだろう。つまり、信の引き受け先のことか。
 自分から聞けばいいのだが、なかなか言葉がでてこない。
「ん、信ね。学校はどげんしたとね?。」
「あ…。」 しまった。返答につまるが、太郎の父親は深く追求もしてこない。
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 窓の外の風景は、見慣れない山道のようになっていて、車が古森家とは違う方向に向かっている。不思議に思って運転する横顔を見ていると、なにか考え込んでいるように真っすぐ前を見ていた目が、こちらを向いて言った。
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 ドライブしようえ、信。
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 車はしばらく走ってから、山の途中にある景観地に止まった。休日には家族連れがキャンプに来るような場所で、駐車場の端からは周りの山々が美しく見える。さすがにこの季節は他に人もいないが、軽食をおいている売店から太郎の父親が温かいコーヒーとココアを買ってきた。
 信は手すりに もたれかかって、山を見ながら相手の言葉を待った。
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(続)

 


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