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正月3日
冬休みに入り、久間田に戻って一週間がたった。
店を再開したころにかかってきていたイタズラ電話も、ほとんどかからなくなっている。他に興味が移ったのだろうか。人間なんてそんなものだ―――と考えていると店の電話のベルが聞こえてきて、母親に呼ばれた。
「あ、信? あのくさ、今うちにおっとね?」 太郎だ。どこに電話をかけてきたつもりだ。
「どげんしたとね」
「今からくさ、慧さんがたい行くとこやけん、先に信んとこ寄ってこかち思って。よかね?」
太郎の声を聞くのも一週間ぶりか。
よか、と返事をして受話器を置く。と、同時に店のチャイムが鳴って―――ドアを開けると、太郎が立っていた。
「あ? おまえ、どっから電話してきたとね」
驚かれたことにビックリしたような顔で、そこ、と道路を挟んだ公衆電話を指差した。ちょびっと顔ば見に来ただけやけん、と言う。「これから慧さんとこに挨拶に行くとよ」
「…ちょっと待っとらんね、上着取ってくるけん」
「あ、信?」
* * * 信が2階にあがったので、太郎は早苗と2人きりになった。
「あ、あけましておめでとうございます」 太郎はおろおろと挨拶する。
「おめでとうございます。こちらからご挨拶に伺わんとでけんとこやったですけん、申し訳なかです。」
「あの…すみません、いきなり来てしもて。信、連れ出すつもりやなかったばってん、えと」
「あん子、退屈しとりましたけん、よかですよ。」
太郎は早苗を見て、なにを言えばいいのか困っている。
「いつも信んこつ、お世話んなって、ありがとうございます。ここにおってもなんもでけんですけん、ほんなごつ助かっとるとです。」
早苗が丁寧に話すので、余計に緊張してしまう。
「お世話って……」 ちらっと階段のほうを見て、信がまだ降りてこないのを確認する。
「あの、すみません。信んこつ。」
「はい?」
「信、本当はずっとお母さんと一緒におりたかですよ。ばってん、僕が自分んちこつばっか考えて、その、僕、ずっとお母さんに申し訳なかち、思って。信、優しかけん、無理してうちにおってくれとるとです。」
すみません、ともう一度言うと、早苗は困ったような顔をしている。ほんの一瞬、泣きそうな顔をしたように見えた。
次に言う言葉が見つからなくて、どうしよう、と思っていると信が下りてきた。
(続) |