神霊狩小説


J 9月2×日 学校・図書館〜翌日

 
 
「え〜〜〜と、『卑弥呼に文おくる』やけん、ふ、み、お…230年たい」
「…『卑弥呼に文くれ』やろう。239年」
「えっ、わ、すごかねー信、ちゃんと覚えとるとね」
 何故か負けたくせに嬉しそうにしている太郎にバカにしとっとか、とあえてぶっきらぼうに言う。
 賭けの景品にならないように太郎の母がカレーライスを用意した夕食だったが、太郎が 「約束やけん」 と、自分の嫌いなラッキョウを揚々と信の皿に積み上げてきた。
 やめんか、と揉めていると 「もう、太郎も信も、いい加減にせんね」 と自分まで怒られたので、思わず太郎の頬をつねってやった。 
 太郎の頬はビックリするほど柔らかく、つねっても 「痛くなかとよ〜」 と笑っていたが。
 
 
「へぇ〜、競争してんだ。で、どっちが勝ってるわけ?」 匡幸が面白そうに訊く。
「今は2勝2敗。でも夕ごはんがカレー、ちゃんこ、おでん、味噌鍋と続くばってん、なかなかおかずの争奪にはならんとよ」 太郎が指を折りながら答える。
「…太郎、それ、お母さんにからかわれてんじゃねーの?」
 え? なんで? そげんこつなかよねー信、と言われて目が合った。
 
「……。」 気がついてなかったのか。
 
 
 
「お母さん、ひどか〜」
「なにが『ひどか〜』よ。あんたたち、食べ物で遊ぶようなこつ言うけん、懲らしめてやろうち思ったとよ」
 夕食の水炊きを前に言葉が飛び交う。
「夜ごはんちゃんと食べんと、ますます小さくなるとよ! まだ勝負続けるなら、受験までずーっとカレーにするけんね、毎日2人でラッキョウの取り合いばせんね」
 ここまで言われて太郎も引き下がった。
「あーよかったと。太郎も9月に鍋だされて、よう今まで気がつかんかったとね」太郎の父が笑った。
 
 夕食後、太郎の母に「瑞香の部屋、片付けておいたから今夜から使いんしゃい」と言われる。
「えー、僕の部屋でよかやとに」 太郎が言うと
「あんたたち、一緒におったら勉強せんでしょ。机も1つしかないけん」 と一喝された。
 本当にいいのだろうか。いっそずっと太郎の部屋にいたほうが気が楽だと思ったものの、断る口実もでてこない。
 
 夜中まだ慣れない何もない部屋に一人でいると、なぜかしら独房に閉じ込められたような気分に襲われた。
 


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