神霊狩小説


G 9月2×日 水天町・古森墓地

 
 
 古くからこの地に住む古森家には、一族一統の墓地がある。
 山の中腹のうっそうとした木々の間にある、古森家一族のみの共同墓地だ。
 大神は分家なのでそこに墓石があるわけではないが、古森家始祖の命日には他の地方に出ている分家もすべて集まり、墓地横の寺院で法要を行うことになっている。
 
 太郎親子が住職に挨拶をしているあいだ、信は境内の離れた場所でぼんやりと集まった「親族」を見た。
 毎年誰と話をするわけでもなく一言も口をきかずに帰っているため、誰がどういう関係なのかはさっぱり分からない。
 まわりも大神家に係わりを持たないよう避けているので、この日は憂鬱以外の何ものでもなかった。
 
「信、こんなとこにおったと」 太郎が走ってきた。
「中で、誰か会いたか人おらんかったとね?」
 どう見たら自分に話したい人がいるように思えるのか、と口から出かかった時「大神の…」 かすかに話し声が聞こえた。
 目をやると、誰かが太郎の両親に話しかけていた。信のほうを見ている。
「そう、うちで預かることになったとよ。太郎とも仲よかけん」 太郎の父親が説明しているようだが、こちらからは表情が見えない。
「ばってん…この間は小学生の女の子ば監禁して教祖にしたてあげようとしたとか、テレビで観たとよ」
 あれ以降、親族からの大神拝霊会に対する評価はさらに悪くなったようだ。
 いつものことだ。子供の頃から、いつもこんな目で見られてきたのだから。
 ぎゅっと唇を噛む。横にいる太郎にも声は届いているようで、どう思っているのか気になった。
 
「ホントによくなかよ、あんな家のもんを…」 と続けている声が聞こえたとき、いきなり太郎が走り出した。
「ちょっ、待たんね太郎!」 両親のほうに走りかけた太郎をとっさにつかまえる。
「放さんね信! あげな…なんも知らんくせに」
「おいは、慣れとるけん」
「こげなこと、慣れるわけなかろうも!」 これではいつもと立場が逆だ…なんで太郎が泣きそうな顔をするのだろう。
 
 
 今になって、ようやく気がついた。
 誘拐事件の被害者と、加害者と噂される男の息子。
 それが一緒に生活して、同じ高校に通う。どんな目で見られることか。
 夏に拝霊会が起こした事件も、この小さな町ではかなりの噂になっていた。
 太郎の父親にしても本当に太郎が心配なら、自分など遠ざけておいたほうがいいと考えただろうに。久間田に行った後など、どうなろうが関係ないことだ。
 
 俺は、『本家の坊ちゃんのお目付け役』なんかじゃない。むしろ太郎たちのほうが一緒にいて俺を守ろうとしている……
 お兄ちゃんのつもりなんよ、という太郎の母の声が響く。 
 ……自分だけが分かっていなかったのか。
 


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