神霊狩小説


D 9月1×日週末 久間田

 
 
 信は週末、久間田に戻った。
 
 バスを降りてから、古森家を出る前に太郎の父親に言われたことを考える。
「信は、高校行くとやろ?」
 前日に進路希望のアンケートがあったのを太郎に聞いたらしい。自分にはまったく関係ないので白紙で出したのだが。
 高校なんて、考えたこともなかった。
「まあ今から勉強して間に合うかは信次第かもしれん。お母さんにはおいから話してみるけん。もちろん高校は久間田から通ってもよかし、このままうちにおってもよかよ」
「おいは、そんな」そこまで世話になるわけにはいかない。 
「…実を言うとな、太郎のことが心配でもあるとよ。高校は中学よかちいと遠かけん、もうカウンセリングも必要なかちこつなっても、少しな。信が一緒にいてくれたら、太郎も心強か思うばってん」
 太郎のお目付け役、という意味だろうか。
 しかし本家にしても、人ひとり養って高校まで行かせるのは負担になることだろう。
「どげんかな信」
「ちいと…考えさせてください」
 
 
 早苗は古森家から話があったらしく、進学は賛成するけどと話をされた。
「ばってん、卒業したら仕事ば見つけんと」
 早苗は一瞬驚きのような表情を見せてから、微笑んだ。
「あんたがそげんこつ心配しとるなんてね。」
「……貝原さん、あん時の前にね、財産の一部をうちの名義にしてくれておいたんよ。ひょっとしたら、うちが生き残るこつ分かっとったんかもしれん。だからしばらくは、あんたはなんも心配せんでよかよ。うちももう少ししたら店を開けるつもりやけん。せっかく本家ん皆さんが言うてくれとるこつ、甘やかしてもらってもよかやなかろか。」
 死んだとはいえ、貝原の名前を出されると信はいまだに不快な感覚を覚える。
 早苗もそれを気にして今まで黙っていたようだ。
 
 早苗にしてみれば、息子を本家に差し出すことで、11年前の事件の罪滅ぼしをしているつもりなのかもしれない。
 確かに早苗があんなことをしなければ、太郎の家には瑞香がいて、優しい両親となに不自由ない暮らしをしていただろう。
 親戚の子供がひとり、行方不明になったといえばたまに気にはかけるかもしれないが、自分の娘が殺されることに比べたら些細なことだったに違いない。
……このところの自分の発想は卑屈すぎる感じがして、自分自身が嫌になってきた。
 
「あんたはまたうちに捨てられるっち思うとるかもしれんね。ばってん、前とはぜんぜん違うとよ。あんたはもう私の子やけん、いつでも会える。二度と会えんと思って過ごすんと、自分の子を親戚とこに居候させてもろうとば、別んこつたい。週末には帰ってきてくれればよか。」
 
 まっすぐこちらを向いて話す早苗の顔には、余裕のようなものすら感じられた。
 

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