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目が覚めたとき、信はまず違和感を覚えた。
いつもとは違う朝。見慣れない部屋だ、と一瞬思って
「…ああ」とつぶやいた。
一連のごたごたの後しばらく太郎の家に居候させてもらい、昨日久間田に戻ってきたのだ。
ほんの二週間くらいの居候生活だったが、かなり馴染んでいたのだな、と思う。
母の早苗はまだ眠っているらしく、ふすまのむこうにはなんの物音も聞こえない。
体調は元どおりになったとは言っていたが、やはり朝は苦手なのか。
母との生活はどんな風になるのだろう。
なんの考えも浮かばず、もう一度目を閉じた。
「しっかしありえねぇよな〜。普通、新学期はじまったら水天町戻ってくるもんじゃないの?
夏休みの間はいて、新学期から久間田 なんて、おかしくね?」
いつもの調子で匡幸が言う。
「僕も、そう思うたい」太郎が答える。
「で?信はなんて言ってたわけ?学校」
そう『学校、どうすると?』と訊いたときの信は顔色も変えず『さぁな』としか言わなかった。
有無を言わさぬ表情に、それ以上何も言えなかったのだ。
太郎を不安にさせたのは、母の行動だった。
食事のとき「あら〜、やっぱりいきなり人数が減ると、寂しかね」と冗談めかして言っていたものの、2日たった昨日の夜、信の座っていた席に食事の支度がされていたのを見てギョッとした。
「…あ、おらんのやったね」とつぶやく母に、父も太郎もなにも言えずにいたのだった。
あきらかに、太郎の姉がいなくなった時との思い出が重なっているようだ。
一時期とはいえ、家族が増えていたのは太郎の母にもよい刺激となっていたのだと痛感したが、去られたあとのことまで考えていなかった。
「どげんしたら、よかやろか…」
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