神霊狩小説


A 9月1×日 水天町
 
 
 一週間ほど過ぎた金曜の放課後、匡幸と道男が職員室に呼ばれた。
「いや〜まいったよ。信のこと訊かれてもさぁ」
 春からはわりと出席していた信がさっぱり来なくなったため、さすがに担任も気にして2人に訊いてきたという。久間田の連絡先が分からないようだ。
 
 数日前に匡幸のほうから電話したようだが、「結局あいつ、どうしたいのかね」とあきれていたところを見ると、はっきりした返事はなかったようだ。
 おもむろに携帯電話をとりだし、電話をかける。
「あ、もしもし中嶋といいますが。信くん、あ、はい……あ、信?あのさぁ明日ヒマじゃねぇ?ちょっと俺たち久間田まで行っちゃおうかなーなんて。
…あ?太郎?うん。…ああ」太郎のほうを見ながら何か話している。
「どげんしたと匡幸?」
「あのさ、信のお母さんが、一度太郎の家に挨拶に行きたいんだってさ。で、あさって信も一緒に行くけど、どうかって」
「え?あ…」日曜は両親とも家にいるはずだ。ちょっと考えて「うん、よかよ」と答える。
 電話を切って匡幸が「なんだよ〜早く言えってんだよ。心配させっぱなしなんだから」とつぶやいた。
 
 昼、信と早苗が古森家にやってきた。
 信は憮然としたようすで、黙ってお辞儀をした。目が合ったが、太郎のほうもなにも言わずに目をそらしてしまった。早苗をじっと見る。
 タクシーで来たようだが、体調はどうなんだろう。もともと透けるように白い肌のためか、常に顔色が悪く見える。
 事件の真相を知って以降信の母に会うのは初めてだが、ここに来るまでおそらく多くの葛藤があったことだろう…。
 
 
 信は太郎の視線の先に早苗がいるのを気にしていた。
 太郎と太郎の姉・瑞香を事件に巻き込んだ張本人だ。どんな気持で自分たちを見ているのか、太郎の表情からは読み取れなかった。
 応接間に通されるときも、故意に信を目を合わせないようにしている。信は少しイライラした。
 もちろん今日は11年前の事件のことを話しにきたわけではない。大神拝霊会のことで信を居候させてもらったことへの礼と、長く音信不通にしていたことへの謝罪だ。
 早苗は太郎の両親にしきりに頭を下げている。
 こんな状況はあまり見たくない。
 
 太郎に部屋に行こう、と言われて応接間を出た。


inserted by FC2 system